スペシャル対談 このたびの対談ゲストは、NPO法人ファザーリングジャパン代表の安藤さん哲也さんです。

安藤さんは「イクメン」という言葉を流行語にしたことでも有名な、ROCKな魂をもつ3児の父です。現在、もっとパパたちが育児を楽しめる社会に、もっとママをサポートできる社会にと、全国を駆け巡り大活躍中!

今回は安藤さんにたっぷりとイクメン情報をお聞きしました。
安藤哲也さんNPO法人ファザーリングジャパン代表 安藤哲也さん“あと7年で父親の育児支援に決着を!”

ファザーリングスクールとは?

安藤哲也さん
大葉:
ファザーリングジャパンが主催する『ファザーリングスクール』で、大切にしていることを教えてください!
安藤さん:

隔週水曜日に、父親であることを楽しむための学校、『ファザーリングスクール』を開催しています。狙いとしては、1つ目に「意識・マインド」。2つ目は読み聞かせや料理などの「育児・家事スキル」ですね、3つ目が特徴的で、「パパ友というネットワーク」作りに力を入れています。

子育てをやるからには悩みが出てきます。でも男性は普段、会社で育児の話はできないし、地域にパパ友はいない。それでストレスが溜まってきて、ついママと対立したり、子どもに当たってしまうこともある。ですからパパ友との交流で、子育ての難しさや楽しさを共感してもらうことを目的としています。同じ年頃の子供がいるパパ友を、地域・職場でもっていると、問題解決のきっかけにもなったりしますしね。

スクールが修了したあともパパ友として交流が続き、例えばメーリングリストで誰かが「子どもが生まれました」なんて報告を流すと、みんなから「おめでとう」ってお祝いのメッセージが届いたりします。親戚より深い関係性がありますよね。他にもパパ友仲間でファミリーキャンプに行ったり……。このスクールが、そういった育児の色々な楽しさを実感出来るきっかけとなれば、と考えています。

大葉:
素敵です!今までの育児支援策は、そのほとんどが「子育て=マザリング」でしたね。育児が「ナーサリー=世話をする」とも訳されていましたし、「ペアレンティング=親をする」という育児の発想が、女性たちにもなかった。子どもの誕生後は、社会も妻も「子育てしている時間があったらパパは稼いできて!」と、ファザーリングの時間を与えない構造だったのかもしれません。
安藤さん:
分業になっていましたよね。それを双方が完璧に満たさないといけないと思っていた。しかし現在は共働きも増え、男性も子育てを当たり前にやっていく時代です。ただ、真面目すぎる親が多いのも気がかり。独りよがりな育児ではなく夫婦で話し合って共通のビジョン・目的を共有することが大事です。「わが家のファミリー・ステートメント」を作って、その方向でやっていく。そこさえしっかりあれば、子育ては案外うまくいくものです。

ママの夢を、聞いたことはありますか?

安藤哲也さん
大葉:
ビジョンとミッションですね。
安藤さん:
そう、それがないままやるから情報に振り回され、イメージ通りに行かないと感情的になって、育児中に夫婦で話がこじれるんです。 『ファザーリングスクール』では、エラーのメカニズム、「なぜそうなってしまうのか?」という部分をしっかり学びます。また、夫婦関係や家族の有り方を考え、「家庭内マネジメント」をどうするのか?ということをパパたちにしっかり伝えます。
大葉:
一般的な日本の夫婦は、そういう感覚が全然ないですね。結婚する前に話せると理想的ですね。 たとえば、子どもが独立し、子育てを卒業した後、カップルとしてどうしていきたいのか、日常の意識だけだと、なかなか話し合うきっかけがないですね。意識的にミッション・ステートメントをつくって、ビジョンとミッションを整理することは大切ですよね。
安藤さん:
子どもはいつか自立します。その後の人生の方が長かったりする。だから パパもママもロングな人生のビジョンやミッションが必要。それを尊重し合える夫婦の関係。支え合うためのシステム、つまり仕事と子育ての両立に向けた努力が必要なんです。
大葉:
育児って「未来人育て」ですものね。男性が参加できないのはもったいない。日本で使われる「育児」の大意は「=Nursing」である場合がほとんど。おむつかえとか授乳とかも「お世話」「チャイルドケア」という意味になりますし、日本での育児情報はお世話情報が過多なんです。それより「ペアレンティング=親をする」という概念、それも“育児を通して、大人は育自する”という意識が大事ですよね。
安藤さん:
子どもが育つ環境で一番大切なことは両親つまり夫婦仲がいいことです。それは、支配関係ではなくて、パートナーシップです。パートナーとは「相手の成長をサポートすること」ですからね。FJでよく言っているのは「妻の人生は、夫のものではない」ということです。
大葉:
それを講演会で聞いた時、目の前の景色が変わりました。なんだか、スカッとして。「ママの夢、聞いたことありますか?」「ママの人生は、パパのものではありません!」といつも豪語してくださってますね。
安藤さん:
自分が少年期だった時代の、「たくましいお母さん=ほぼ専業主婦」というモデルに、自分の妻を当てはめるから問題が起きるんです。1985年に男女雇用機会均等法が出来ましたが、それ以前は女性はほぼ家庭に入る選択肢しかなかった。
大葉:
「専業主婦モデル」は高度経済成長期になって生まれた、ということがイメージできない人も少なくありません。その前の第1次、第2次産業時代は、お母さんたちはみなワーキングマザーでしたよね。
安藤さん:
今、「ウーマノミクス」なんて言葉がでてきていますけど、日本社会は少子高齢化が進むので、今後、生産人口や労働力が減って行く。その中で有能な女性を活用していかないと、企業も衰退していきます。もちろん企業は分かっているけどを制度だけでなく、風土を変えなくてはダメです。男女の役割分業の見直しを職場でも家庭でも本気でやらないと、結局最後は女性に負荷がかかってきて、仕事を離れてしまいます。だから我々は「さんきゅーパパプロジェクト」(男性の育休取得促進事業)を進めています。パパの育休が当たり前になってくれば、女性も産休、育休後の早期復帰が容易になったりします。
大葉:
妊娠すると女子は未だに6割~7割が勤務先を辞めています
安藤さん:
男女雇用機会均等法以前と何も変わっていません。
大葉:
男女雇用機会均等法以後の社会って、”男性も女性も仕事も育児も”としないと回らない状況なのに、安藤さんはそこだけまだ「OS(オペレーティングシステム)が昭和モデル」とおっしゃっていますね。
安藤さん:
多くの女性・母親はひとりで育児を抱えて苦しんでいる。男性は男性で、給料がそれほど伸びないのにたくさん働かされていて、苦しんでいる。どちらも「仕方ない」と諦めている人が多すぎる。いまこそ発想の転換とシステムの再構築をして、役割分業に囚われないで二人で育児、二人で稼げばいい。その方が安全だしラクになると思うのですが?
大葉:
チャネルを時代ごとに、時世ごとに、適材適所にあわせて回していく感じですよね。
安藤さん:
以前、企業で働いていた時は管理職でした。スタッフの中には優秀な女性は多いのに、結婚出産で辞める人がなぜこんなに多いんだ?モッタイナイ!と感じていました。
大葉:
出産すると働きにくい、という画一的な労働システムは非合理的ですよね。生まれてくるのは未来の大人であって、育てるには資金も必要なのに、働けなくなる。収入が減る。育てる資源が減り、自信まで減る……。これでは少子化は止まりません。また働く女性のほうも、がむしゃらに頑張るうちに月経不順になるなど、バランスを崩している場合も少なくありません。
安藤さん:
結局、日本の企業社会は男性の長時間労働がデフォルトスタンダードになっていて、バリバリ働かないと出世できないというキャリア形成の方程式が背景にありますからね。男性の働き方・業務効率をどう改善するか。多様な働き方を認め、それぞれが不利なくそれを選べる仕組みにしないと。少子化や働く人のメンタル問題、家庭で起きる問題において、諸悪の根源はおそらく長時間労働です。欧米なみに、16時、17時に仕事を終えて、18時には家族と食事できるという生活になれば、男性も育児・家事に関われる。そうしたら、家庭にゆとりができるし、女性も家庭を大事にしながらキャリアを磨くことができると思いますね。
大葉:
効率的にといっても、「働く時間を最優先する」というOSを入れ替えないと筋違いになることがありますね。結局は育児もアウトソースに頼ってしまいがちです。
安藤さん:
日本では「仕事が第一」と考える人が多過ぎます。仕事は食い扶持だから大事だけど、仕事の前にまずは「自分の人生をよりよく生きる」ことを一人一人、特に父親は考えてほしい。勤労は美徳かもしれないけど、行き過ぎた労働は、わが身や家庭を滅ぼします。「ワークライフバランス」の本質、問題提起はそこにあります。でもこれを推進するには、企業1社だけではできない問題です。グループ会社はもちろん、取引先も含めて、働く時間を最優先にしない環境を醸成しなければ。あるいは、消費者や顧客も過剰なサービスを求めない、という風にしていかないとだめです。営業時間が延びて便利になってユーザーは喜ぶけど、客にサーブする従業員にも家族があるわけです。夜中に働いている中年男性を前にして「この人には小さな子どもがいるかもしれない」という想像力を、一人一人が持つことが大事です。
大葉:
自分で35年ローン組んだ家に帰れないってのは辛すぎますね。家が「ホーム」じゃなくって「アウェイ」!平日夜にぜんぜん帰れないから、家庭内に自分の居場所を失くしているのは「昭和モデル」。パリでは週7日、家族で夕食を囲む父親が43%もいるそうです。
安藤さん:
住宅ローンに教育費、医療費…。日本は国の基本政策にかかる分野で家計責任が重すぎるんですよ。だから男性は家買って、子どもができると「ますます働かなければ!」となってしまいます。欧州の多くは住宅費や教育費がそれほど高くないし、教育も公費負担率が高い。育休などの子育て支援制度も、もっと取得した方が得という風にしていかないと……。

父子家庭へのサポート「フレンチトースト基金」

大葉:
ファザーリングジャパンでは、父子家庭へのサポート基金、「フレンチトースト基金」というのをやっていらっしゃいますね。
安藤さん:
父子家庭への経済的支援については、多くの方に賛同いただき、寄付も集まりました。当事者たるシングルファザーたちの国への働きかけも実り、昨年、児童扶養手当法を改正することができました。今後は就労支援が課題ですね。この問題もワークライフバランスとリンクしてます。
大葉:
これまで母子家庭手当ては出ていても、父子家庭には出ていませんでした。これって実は男女差別の構造といわれていますね。
安藤さん:
そうです。男性だって所得が低い非正規社員はたくさんいるし、小さな子どもがいるシングルの親は、女性だって男性だって同じように大変なんです。
大葉:
社会から見逃されがちだった父子家庭の権利保護にまで踏み込んでいただき、安藤さんのご活動の広さを改めて実感しました。そういった方々のためにも、よかった、安藤さん生まれてきてくれてありがとう、と思いました(笑)。
安藤さん:
おふくろ、ありがとう!(笑)

父親の育児支援、あと7年で決着をつけたい!

大葉:
ところで、労働時間の長さも、男性の育児意識に影響を及ぼしていますね。
安藤さん:
「仕事が忙しくて育児時間が取れない」という父親は依然多いですね。原因は個人の意識や働き方にも依りますが、一方で職場の空気に問題ありです。つまり今後日本は、結婚していない、子どもがいない人がますます増えていきますからね。職場において彼らは子どものいる人より、家庭責任感が薄いから、どうしても働けるだけ長時間働いてしまう。それが多数派になると、その働き方がその会社ではスタンダードになってしまい、育児を理由に定時退社や休暇の申請ができづらくなってしまうんです。 だから父親の育児支援はここ数年で本当に思い切ったことをやらないと。僕はあと7年で決着をつけようと思います。男性の1日の育児時間が2.5H、育児休暇取得率10%これが国の2017年の目標でもありますが、僕もそこに照準を合わせて活動しています。
大葉:
その頃、55歳ですか?
安藤さん:
はい。その頃になれば職場で古い意識の管理職もリタイアしていなくなります。たとえば男性社員が「妻に、二人目が生まれます」って上司に言うと「じゃあ、いつ育休とるんだ?」って自然に上司が当たり前に聞いてくる姿をイメージしてます。それが当たり前の社会になってほしいですね。「あの上司だったから育休が取れた」って話はいまはまだ多いですが。くじ引きじゃないんだから(笑)。
大葉:
あの上司なら取れたけど、この上司じゃ取れない、っていうのは同じ会社内でもありますよね。
安藤さん:
アタリ・ハズレがあるのって、「制度」とは言いませんよね(笑)。社員は上司を選べないんだから。
大葉:
やはり、社会全体で構造的に子育て支援を推進しないと、個人や企業の取り組みだけでは限界がありますね。
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安藤 哲也さん
プロフィール

安藤 哲也(あんどうてつや)

父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事。 1962年生まれ。二男一女の父親。出版社、書店、IT企業など9回の転職を経て、2006年に同NPOを設立。「育児も、仕事も、人生も、笑って楽しめる父親を増やしたい」と、企業・一般向けのセミナーや、父親による絵本の読み聞かせ「パパ’s絵本プロジェクト」などで全国を飛び回る。子どもが通う小学校ではPTAや学童クラブの会長も務め、“父親であることを楽しもう”をモットーに地域でも活動中。 厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」座長、内閣府「男女共同参画推進連携会議」委員、内閣府「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム」メンバー、観光庁「休暇改革国民会議」委員、東京都「子育て応援とうきょう会議」実行委員なども務める。 著書に『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『PaPa’s絵本33』(小学館)、共著に『パパルール~あなたの家族を101倍ハッピーにする本』(合同出版)、『絵本であそぼ!』(小学館)、翻訳絵本に『ぼくとおとうさんのテッド』(文渓堂)などがある。NHK第一ラジオ『ラジオビタミン』にもレギュラー出演中。読売新聞でコラム「パパ入門」を連載した。



特定非営利活動法人ファザーリング・ジャパン
2006年11月に設立。「Fathering=父親であることを楽しもう」という考えを持つ若い世代の父親を支援し、働き方の見直しや企業の意識改革、地域社会の再生、次世代の育成までを目標に、父親の意識改革を促すセミナーやワークショップ、スクール事業、パパ検定事業、旅行事業、父子家庭支援、育休取得推進、産後うつ予防プロジェクトなど、さまざまな父親支援事業を展開している。また2011年3月には児童養護施設を巣立つ子どもの自立支援を目的とした「タイガーマスク基金」、東日本大震災直後にも「パパエイド基金」を立ち上げ、被災地の子育て家庭を応援している。

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