スペシャル対談 Peaceful Birth校長の大葉ナナコが、毎回素敵なゲストをお迎えして、“しあわせに、親になる”ということをテーマに語り合う対談のコーナーです。今回のゲストは、夫婦関係が子どもに与える影響などについて調査・研究を続けていらっしゃる菅原ますみ先生にお越しいただきました。
菅原ますみ先生お茶ノ水女子大学大学院 人間文化創生科研究科教授 菅原ますみ先生“「しあわせ」と思える社会でないと、命はつなげない。”

父親の育児はスタートが肝心

菅原ますみ先生&大葉ナナコ
大葉:
菅原ますみ先生は、子どもの発達心理学の立場から、夫婦関係が子どもに与える影響について継続的に調査をなさっていますが、私はその研究データをいつも興味深く拝見させていただいています。「夫婦間の愛情関係の結婚年数による推移」については、私も多くのご夫婦を見てきて、実感として納得できるデータでした。産後の1年半の期間、夫が子育てにしっかり関わると、その子どもが6歳になったときも妻は夫に子育ての悩みを相談するし、11年目のクライシス(夫婦の危機)も起こらない、ということでした。
菅原ますみ先生:
そうなんですよ。夫の妻に対する愛情は、結婚後10年以降も維持されますが、同じ時期の妻の夫に対する愛情は、下降線をたどります。その要因は、夫の学歴や収入、職業などは関係なく、「子どもの乳幼児期における夫の育児参加度」が大きいと言うことが明らかになりました。この研究を始めた頃のお子さんは、もう23歳になっているんですよ。
大葉:
根気のいる調査を続けていらっしゃるのですね。
菅原先生:
実はその後の追跡調査や、改めて5000人規模の追加調査をしたところ、妻の妊娠中から産後の半年くらいまでの夫の関わり方が、影響が大きいことも分かってきました。新しい追跡調査では、妊娠期、ゼロ歳、1歳、2歳と細かく調査をしたところ、ゼロ歳児の時に育児に関わることができた父親は、その後の子育てが順調にいく、ということが分かってきたのです。特に産まれて半年というごく短い間がとても重要なのです。
大葉:
やはりそうだったのですね。父親の育児のスイッチが入るのは、早い方がいいということですよね。
菅原先生:
ゼロ歳児に関わることで、子どもの父親への信頼のきずなが早くから形成され、父子の間に愛着関係が発生するのです。就労時間が長くてなかなか帰宅できないという場合、赤ちゃんと接する時間も少なくなります。そうすると、愛着が発生するきっかけがつかめなくなるのです。赤ちゃんは接する時間が多く愛情をそそいでくれる人に素直に愛着をもつようになります。父子の愛着が育つのは妻にとってもなによりもうれしいことで、その後の家族の生活のなかに父親の居場所がしっかりできていくことになります。

生き物の営みに惹かれて

菅原ますみ先生
大葉:
菅原先生が取り組まれている研究は、「夫婦」から「両親」になって行こうとしている男女にとって、とても心強い内容をデータで示してくださいます。そもそも先生がこの研究に携わられることになったきっかけはどんなことだったのでしょうか?
菅原先生:
最初の関心は生物学にありました。振り返れば、小さい頃から「生き物」が愛おしく、その「営み」が輝かしく見えていました。
私たちが存在するこの宇宙はどんどん拡散しています。その中にあって生物たちは、まとまりをつけ、環境に適応していくことで命をつないでいます。この「適応」ということは、私がいちばん気になることです。生物はそれぞれ工夫をこらしてそのときどきの環境に適応しながら生きていく、というように創造主が作ってくれているわけです。うまく適応できたとき、わたくしたちはそこに幸福を感じることができます。自分たちがしあわせにならないと、次世代を作ろうという気持ちにはなれず、命はつながっていかないのです。ですから、生命がしっかりつながれていくためには、その世代に生きる者が、自然と折り合いをつけて上手くやっていくということが大事だと思っているのです。
大葉:
先生の研究のベースに、そうしたまなざしがあるということがとても素敵ですし、共感できます!私も子どもの頃から生き物のことを知るのが好きで、カマキリが今年の冬は雪深いと思ったら、ちょっと高いところの木の枝に卵を産む、といった類の話に感動していました。私たち人間も生き物としての視点を持つことができれば、もっと優しくなれるはずですよね。
菅原先生:
そうですよね。これがグローバルフィーリングを持つということではないでしょうか。

戦争は非適応的な行為

菅原先生:
私は大学で双生児研究に携わり、さらに環境への適応と言うことへの考察を深めました。
双子という存在は、「遺伝と環境」のリンクをいちばん鮮やかに見せてくれるのです。一卵性双生児は、遺伝子が100%同じ。たった一個の受精卵が、二つないし三つに分かれるわけですから、その子どもたちに違う部分が出てきたら、それは環境がふたりを違わせた、ということになります。双生児研究はそうした環境のちからについていろいろなことを教えてくれます。人間は古今東西、ふたりとして同じ遺伝子を持つ人はいない、といわれているくらい多様で、置かれた環境で色合いが変わってくる。環境によって、ときには素敵に輝く場合もあれば、悲惨を極める状況になったりもします。
大葉:
遺伝子だけでなく、やはり環境が大切だということですね。
菅原先生:
そうです。人が幸せに生きることは、生物の適応ということと深く関係します。種として繁栄したい、国として繁栄したい、という目的があるとすれば、そこの住人がどれだけ幸せかということが大事。そしてみんなの幸福のバロメーターが、どれくらい子どもが生まれるかということと、深く相関するのです。
そこで戦争をするといった破壊行為が行われるとしたら、それは非効率的で非適応的な行いです。いったん戦争などしてしまうと、環境も人も大きく歪んでしまい、何世代にも渡って影響が残ってしまいます。
大葉:
私もそのことは初めて子どもを産んだ時に実感しました。分娩台で産ぶ声を聞いた瞬間、「戦争はぜったいにダメだ!」と強く思ったのを覚えています。命がつながっていることで、世界がつながっているという感覚を強く持ちました。
菅原先生:
生物の適応に反する行為なのですよね。ただ、しかし、人間の中には攻撃欲求や支配欲求という特徴もまた、何世代にもわたって保持されてきています。こうしたものもそれなりの機能がある、つまり、何か必要があって攻撃性も支配性も人類の個性の一側面として残ってきているわけです。ですから、人間から悪いと言われる機能を排除してロボトミーのように変える、という発想ではなく、その人なりの個性を環境にあわせてうまく調節しながら、“適応を作っていく”ことが大事なのだと思っています。

赤ちゃんの代弁者でありたい

大葉ナナコ
大葉:
先生は新生児の研究にも携わっていらしたそうですね。
菅原先生:
修士論文のテーマは「新生児期の個性」でした。修士のときは病院の新生児室に入り浸っていて、とても幸せでした。私は小さい頃から生き物と同じく、赤ちゃんが好きで(笑)。特にちょっと賢くなる前の、生後4カ月以内の赤ちゃんが大好きなんです。
大葉:
私もですー! においとか、柔らかさとか、存在の輝きとか、たまらないですよね。
菅原先生:
本当にそうですよね!そのときの研究では、新生児を2歳まで家庭観察をさせていただきながら追いかけて調査しました。
こうした研究の中で、赤ちゃんが育っていく上では環境がとても大切だと言うことが改めて分かりました。家族の機能、特に親のメンタルヘルスがとても影響します。
ですから私は、赤ちゃんが育つ環境をできるだけよくするための「赤ちゃんの代弁者」となって、子どもの適応に大きな影響力を持つ両親のサポートをしたい、と考えるようになりました。そしてなによりも、育児の負担感に悩む持つ母親たちに、もっとのびのびして欲しいという思いがあります。
大葉:
私たちバースコーディネーターも合言葉は「赤ちゃんの代弁者」です!!母親のメンタルはとても大切なことです。私たちもそこをしっかりサポートしていくべく、事業を多様化しています。たとえば、産後はセクシャリティというテーマも重要です。子どもを抱いた妻がお乳を上げているだけで、夫に「すっかりお母さんになっちゃったね」とか、「もう女じゃない」と言われて傷ついた女性もいます。いちばん女性がきれいなときなのに、もったいない。「女性は産んでから、いよいよ楽しくなるのよ」と言うのですが…。
菅原先生:
日本の女性はがまん強いから、結局は自分の方から折れてしまう。その結果として、夫への愛情が下がってしまうのです。
私は育児の分担やセクシャリティの面も含めて、産後の半年の間に夫婦がお互いをリスペクトして調整して行くことが大事だと思っています。その調整は、できれば妊娠中から初めておいてほしいですね。
まずは、夫婦が同じ目の高さに立つことが大事。私が妊娠とか出産教室などでお話しているのは、作戦会議をしましょうということです。「お互いの活動にリスペクトを払ってください」ということ。お互いの仕事、社会的活動、友人づきあい、趣味、そして子育て。それぞれに責任と権利があるという認め合いから話をスタートさせます。
大葉:
「適応」を作っていくことが大事ですよね。社会的資源を最大活用するとか。
菅原先生:
まさしくそうです。家の近くにいに小児科やオムツの買えるドラッグストアがある、ということだけでも違います。こういう物理的なことも大事。可能だったら、いい子育て環境に引っ越すことも選択肢です。
たくさんの人間科学や生物学の研究が語っていることは、何か万能薬みたいに「これさえあればバラ色の適応になる」といったようなものはない、ということです。自然は複雑系で、そのときどきに少し強い風が吹いても状況は変わってくる。大事なのは、風が吹いても補強すること。そういうことでしのいでいくしかない。ありものの資源の中で1%でもよくなるものがあればバカにしないでこまめに良くしていくことはとても大切です。
大葉:
いきなり家事育児が得意なパパに変わるのは難しいですよね。
菅原先生:
自分や夫や子どものパーソナリティそのものを変えるのは難しいです。そこは無理なので、持って生まれた遺伝子がデザインした、その人のキャラクターは丸ごと愛でる。そこは愛でるのです。問題は次で、パーソナリティがそれぞれの状況のなかで繰り出してくる行動や言葉は、状況を変えたり、ちょっと気を配ることができれば調整可能。そこを気持ちよく動かしていく。そういう理解が大事ですね。
大葉:
その人の存在そのものを受容して、状況や言動という二次的なものを調整していくという捉え方が大事なのですね。
先生は、妊娠中に両親学級への参加することやポジティブな出産体験が、いい育児につながるという調査もなさっていますよね。そのことについてもぜひお聞かせください。

(対談は後半へ続きます)

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菅原ますみ先生
プロフィール

菅原 ますみ(すがわら ますみ)

<略歴>
1958年東京生まれ。現職は、お茶の水女子大学大学院人間文化創成科学研究科・先端融合系教授。東京都立大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学(心理学専攻)、文学博士。
国立精神・神経センター精神保健研究所地域・家庭研究室長を経て、2002年よりお茶の水女子大学大学院人間文化研究科助教授、2006年より現職。
専門は発達心理学で、子ども期のパーソナリティの発達や精神疾患などの不適応行動の出現に影響する環境について、家族や教育・保育施設、メディアや居住環境など広範囲な要因について研究している。妊娠期よりの長期追跡研究や、遺伝と環境の相対的影響関係を知るための双生児を対象とした追跡研究などをおこなっている。

<学会活動>
日本心理学会, 日本教育心理学会, 日本パーソナリティ心理学会, 日本双生児学会,日本子ども学会, 人間環境学会に所属。
日本心理学会代議員(2009年~現在に至る)、日本子ども学会理事(2010年~現在に至る)、日本パーソナリティ心理学会理事(2007年~現在に至る)、日本双生児学会幹事(2010年~ 現在に至る)

<著書>
『個性はどう育つか』(菅原ますみ著 大修館書店 2003年、単著)
『子ども・家族への支援計画を立てるために:子ども自立支援計画ガイドライン』(日本児童福祉協会, 2005、共著)
『漂流する子ども― 発達危機の理解と支援』(金子書房、2007、編著)
『保育の質と子どもの発達-アメリカ国立子ども人間発達研究所の長期追跡研究から-』(日本子ども学会 編、赤ちゃんとママ社 2009、編著)
『ママというオシゴト』(菅原ますみ著 主婦の友社 2009、単著) など。

バックナンバー 安藤哲也さん NPO法人ファザーリングジャパン代表 安藤哲也さん
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久保純子さん フリーアナウンサー 久保純子さん
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