スペシャル対談

ママの夢、きいたことありますか?

安藤哲也さん
安藤さん:
日本のこれまでの子育て支援事業は、それはそれで意味あることをやっているんだけど、多くは場当たり的な支援なんです。でも今後は「予防」を目的にした支援が必要でしょうね。母親だけに「がんばれ!」って言ってたって、産後うつや児童虐待は減りません。ママたちを追いこんでしまう環境、その一つがパパたちの働き方や職場風土を変え、家庭に帰って育児に参画できるような社会づくりです。 この5年間で約1万人のパパに会ってきましたが、まだ多くの男性が現代における父親の役割を間違えている場合が多い。仕事して家族を養ってればいいというのは、貴方のお父さんの時代のモデルですよ、と。OSが古いんです。個人も会社も。
大葉:
日本の家庭で「お父さん」の役割を演じる時には、「優位性の強調」という男性性が前面に出てしまいがちですね。茶ぶ台をひっくり返し「誰のおかげでメシ食ってるんだ」という台詞のドラマは昭和に多かったです。
安藤さん:
根強いですね。逆にママも「どうしてやってくれないの?どうしてどうして?」ばかりで。結局パパからするとママの言うことは「女性の恨み節」にしか聞こえなくなってしまうわけです。
大葉:
こどももそうですが「どうして?」には「だって」と対抗してしまいますよね。「だって、会社が」とか。
安藤さん:
でもね、子育ては期間限定なんです。会社での役割に代わりはいても、この子の父親はきみしかいないんだよって言いたい。親が親業を出来るのもまあ20年くらいしかないんですよね。
大葉:
欧米の方が、子どもが毎日学校に行くのに「今生の別れ」みたいにキスしてハグしてしている姿ってすてきです。子どもも早く成長してしまう文化背景もあるかもしれませんが、親子期間が充実してますね。そういうことですよね。
安藤さん:
一方日本は、ずっと子どもが大人になった後も家庭に居続けるような状態を容認してます。いまの時代、親に資産があって、子どもが非正規社員だったら依存しちゃいますよ。そうなるといつまでたっても自立出来ないし、親は介護を当てにする。共依存みたいな感じ。
大葉:
結婚して家庭を持っても、何かと実家に援助を求めたりする現状がありますね。
安藤さん:
そういえば、里帰り離婚が増えているらしいです。ママが里帰りして、3ヶ月で帰ってくる予定だったのに、パパがたまに来てくれても育児の意識は高まっていないし、「仕事休めねーよ」とか言うのを聞くと、家庭に帰ったら苦労するのが目に見えるわけです。実家のほうが楽じゃないですか、お母さんが家事も子育てもやってくれるから。で、そのまま帰らないで離婚に至るケースが増えている。
大葉:
里帰り出産は、34週には出産施設に来てくれといわれます。出産日の前2ヶ月、後2ヶ月の間、実家でママはくつろげるのは悪いことではないのですが。でもカップルが出産を機に親になる、まさにそのためのメインステージなのに、妻が実家に帰っちゃう。極端な言い方をすると、里帰り出産は、新しいファミリーを作る時間を壊す流れになっています。里帰り出産システムは、実は日本にしかない文化ですよ。両親学級で、「里帰りする人~?」って聞くと、半分くらいのママが手を上げます。危ないなあ、といつも感じる。

今年は、イクジイプロジェクト

安藤哲也さん
安藤さん:
今年は「イクジイプロジェクト」を展開中です。育児するおじいちゃん、おばあちゃんを変えていくというプロジェクト。特に「男の育児なんてとんでもない」なんて古い価値観を持っていた方が、おじいちゃんとなって孫と向き合うにあたって、自分の子どもでやってこなかったことやって初めて子育てに目覚めちゃうケースは多い。また自分の子でやって来なかった罪滅ぼしという意識もあるでしょう。
でも自分の孫を可愛がるだけでなく、地域の活動にしたり、社会事業に携わって貢献したりすることで、その人自体がエンパワメントされていく。そのほうがせっかくのセカンドライフを明るく元気に暮らせます。そしてそのほうが奥さんも楽です。定年した夫がずっとすることなくて家にいられたら嫌でしょ?定年後の過ごし方が分からないから、ずっと奥さんの後をついていくだけの男性はなんか惨めですよ。
大葉:
おばあちゃんのほうが、サークルに行ったり、自分のコミュニティがあるんですよね。
安藤さん:
それは、子育てを地域でして来たからですね。だからパパも子育てや地域に関わってコミュニティを作っておくと、老後にも絶対いいよ、って言ってます。定年退職したら、行くところないのに平日にスーツ着て会社の近くまで行ってる人いますよ。日経新聞持って。昔の仲間と過去の仕事の武勇伝やプロジェクトXな話をしている人みたことあります。
大葉:
(笑)一番幸せだった時期の想い出話が家族のことではなく仕事のことだけになると、さみしいですね。高度成長期時代の?
安藤さん:
そんなヒマがあるなら、地域で社会貢献すればいいじゃないって?もったいないです、彼らだって社会の資源なのに。イクジイプロジェクトでうまくその力を発揮できる場を作りたい。おじいちゃんが保育免許をとれる講座もやろうかなと思っています。地方で定年後に保育士免許を取って保育園に勤めている方がいます。子どもに竹とんぼの作り方を教えてあげたり、大工仕事してあげたり。子どもにも大人にも人気です、そのおじいちゃん。いきいきしていていいお顔。つやつやです(笑)
大葉:
保育園に、社会経験があって管理能力の高い男性がいらっしゃったら心強いです!!セキュリティの意味も含めて。子どもたちにも、男性女性、各世代が保育の場にいて下さるのはとてもいいことです。
安藤さん:
いま家庭と地域がすごく母性化していることに問題があると思うんです。そしてその先に、自立できない子どもがいる。だからイクジイがナナメの関係を子どもたちと作っていくことが大事。それができる人を増やしたいですね。 そして僕らもいつかはおじいちゃんになるから、そういうロールモデルを、今のうちにみておきたいなあと。FJが数年前この活動を始めたときって、あの人たちは抵抗勢力だったの。つまり、育児や地域活動を積極的にやってこなかった人たちだから。でも、対立するんじゃなくて、一緒に子ども達のために、未来を考えましょうよと。共同してイクメンとイクジイのパワーを融合したほうが、世の中が変わっていくと思う。
イクメンは、なかなか地域にいる時間がないけど、イクジイは地域にいますから。地域の「かっこいい笑ってるおじいちゃんになろうよ」と。
大葉:
おじいちゃんが格好いい国ってステキです!!もちろんおばあちゃん達も笑顔溢れる国がいいです。子どもが独立して、定年して、「さあ、二人でセカンドライフを」というときに熟年離婚っていうのは本当にもったいない。
安藤さん:
熟年期の離婚の原因の一つには、子育てに男性が育児に協力しなかったことがあると思います。
大葉:
親たちのそういう状況を子供が目の当たりにしたら、今度は子供の世代でも常識化してしまいますよね、もったいない。では最後に、これから両親になる方に、ピースフルペアレンティングとなる条件というのを、お伝えいただけますか?

イクメンの必要充分条件とは?

安藤さん:
まず、イクメンが増えたのは嬉しいけど、まだ「惜しい」パパが多いかなと。週末だけ育児を手伝っていればいいってものではない。イクメンの必要充分条件は4つ。 1つは、子どもに対して、ママが主担当で自分は副担当というスタンスではなく、「2トップフォワード」という意識で、二人で主体的に最前線でやることです。その意識が持てれば家族との時間を「家族サービス」なんて絶対言わなくなる。
大葉:
「サービス」という言葉はポイント稼ぎという印象を生みますね。喜びが伴ってないかんじ。
安藤さん:
あの言葉を撲滅するのがミッションです。2つ目は、「家事育児を楽しめるところまで行こうよ」ということです。やっぱり自分で課題を見つけて、その解決のために自分が動くことが大事。例えば掃除・洗濯している時間を、どうクリエイティブにしていくか、ということを伝えています。 3つめは、パートナーシップです。自分の子どもをいのちがけで産んでくれたママを、リスペクトして生きるべし、と!そうじゃないとあとでしっぺ返し、付けは回ってきます。何度も言いますが、ママの人生はパパのものじゃないということです。
4つめは、やはり地域にもっと貢献しようと。 この4つを「父親OS(オペレーティングシステム)」として自分の中に入れておくと、バージョンが上がって、家族に愛されるし、育児や人生が楽しくなってくるよ、と。
大葉:
シニアの孤独死とか、問題は同じですね。せっかくファミリーがあって、マイホームまで建てたのに、結局「アウェイ」なんて悲しすぎます。パパには楽しく自信をもって家族の中にいて欲しいです。
安藤さん:
昔の変な「家長」としての役割に囚われないで欲しいですね。最低限の衣食住を確保することは大事だけど、過剰に人よりもいい暮らしをするだとか、外車に乗ったりとか、ゴルフの会員権を持つことが、もはやステイタスではないと思うんです。
大葉:
超一流企業につとめていて65歳になったら離婚届、というのもその構造の延長線上ですよね。
安藤さん:
ファザリングスクールでは「たまにはママの夢を聞いてみたら?」っていいます。でも多くの男性は、やっぱり殆ど聞いたことない。でもこれからの夫婦は、子どものことばかりでなく、お互いのライフプランについて会話してほしい。夢はただ見るものでなく、かなえることが大事。それをサポートするのがパートナーのすべきことだと思う。「家事をちゃんとやるなら働いてもいい」なんていうのは、そんなのパートナーシップじゃない。
大葉:
相手の夢をかなえるのが真のパートナーシップ。ピースフルなペアレンティングって、家庭が本当に「ホーム」であって、地域が「ホームタウン」になって、カップルがお互いの夢と存在をリスペクトできるということかもしれませんね。

対談を終えて…

安藤さん、ありがとうございました!!父親であることを楽しめる人々がたくさん増えますように!!
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安藤 哲也さん
プロフィール

安藤 哲也(あんどうてつや)

父親支援のNPO法人ファザーリング・ジャパン代表理事。 1962年生まれ。二男一女の父親。出版社、書店、IT企業など9回の転職を経て、2006年に同NPOを設立。「育児も、仕事も、人生も、笑って楽しめる父親を増やしたい」と、企業・一般向けのセミナーや、父親による絵本の読み聞かせ「パパ’s絵本プロジェクト」などで全国を飛び回る。子どもが通う小学校ではPTAや学童クラブの会長も務め、“父親であることを楽しもう”をモットーに地域でも活動中。 厚生労働省「イクメンプロジェクト推進チーム」座長、内閣府「男女共同参画推進連携会議」委員、内閣府「ゼロから考える少子化対策プロジェクトチーム」メンバー、観光庁「休暇改革国民会議」委員、東京都「子育て応援とうきょう会議」実行委員なども務める。 著書に『パパの極意~仕事も育児も楽しむ生き方』(NHK出版)、『PaPa’s絵本33』(小学館)、共著に『パパルール~あなたの家族を101倍ハッピーにする本』(合同出版)、『絵本であそぼ!』(小学館)、翻訳絵本に『ぼくとおとうさんのテッド』(文渓堂)などがある。NHK第一ラジオ『ラジオビタミン』にもレギュラー出演中。読売新聞でコラム「パパ入門」を連載した。



特定非営利活動法人ファザーリング・ジャパン
2006年11月に設立。「Fathering=父親であることを楽しもう」という考えを持つ若い世代の父親を支援し、働き方の見直しや企業の意識改革、地域社会の再生、次世代の育成までを目標に、父親の意識改革を促すセミナーやワークショップ、スクール事業、パパ検定事業、旅行事業、父子家庭支援、育休取得推進、産後うつ予防プロジェクトなど、さまざまな父親支援事業を展開している。また2011年3月には児童養護施設を巣立つ子どもの自立支援を目的とした「タイガーマスク基金」、東日本大震災直後にも「パパエイド基金」を立ち上げ、被災地の子育て家庭を応援している。

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